宝ものは君たちの中にある

コラム:人はなぜ忘れるのか?
大事なことを忘れない記憶スイッチの使い方

2024年9月15日掲載

こんにちは。MYスイッチのスイッチラボです。

9月も半ばになると、あんなに厳しかった残暑も落ち着き、ようやく秋を身近に感じられるようになりました。暦の上では、暑さが終わりを迎える「処暑(しょしょ)」が過ぎ、今は「白露(はくろ)」と呼ばれる季節に入りました。草木などに降りた朝露(あさつゆ)が、少し気温が低くなってきたために白っぽく見えることから、「白いつゆ」で「白露」です。昔の日本人は、景色を言葉にするのが本当に上手だったなぁと、改めて惚れ惚れしているスイッチラボです。

ただ、朝露は早起きしなければ見られない上に、最近は温暖化が進んでいるので、もう少し気温が下がらないとお目にかかれないかもしれませんね。

さて、これから1日ごとに秋が深まっていきます。秋といえば、芸術の秋、スポーツの秋、食欲の秋など、いろんな秋がありますが、皆さんにとって一番大切な秋は、そう「勉学の秋」ですよね。秋分(しゅうぶん)の日(今年は9月22日)を過ぎると日が暮れるのも早くなり、夜の時間が長くなるので、静かに勉強できる時間も確保しやすくなると思います。

勉強といっても大きく分けて、読む、聴く、覚えるなどの「インプット型」と、問題を解く、文章をまとめるといった「アウトプット型」の2種類があります。今回、スイッチラボが注目するのは、インプット、すなわち「暗記」です。あんなに一生懸命覚えようと頑張ったのに、一晩寝たらキレイに忘れてしまった・・・とか、雑多なことは覚えているのに、肝心なところが思い出せない・・・といった経験をお持ちの方も結構多いと思いますが、「なぜ人は覚えたはずのものを忘れてしまうのか?」 今日はそのあたりを深掘りしたいと思います。

人はなぜ忘れてしまうのだろう?

授業でも、テレビや本でもネットでも、何かの知識や情報をキャッチしたとき、その場では「なるほど〜〜」としっかり理解し、脳にインプットした気になっていても、しばらくすると「あれ?なんだったっけ?」と、すっかり忘れている自分に気づくことってありますよね。反対に、何気なく聞き流しているようなことでも、いつの間にか記憶に定着していることもあります。改めて考えてみると、記憶する、覚えるって、不思議な現象ですよね。

さて、ここで恒例の問題です。
人は記憶したことを、1時間経つとどのくらい覚えていると思いますか?

8割9割は余裕!と思う人も多いと思いますが、実はなんと「半分くらいは忘れてしまう」らしいのです!

時間と記憶の関係を熱心に研究した19世紀ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウス博士が編み出した「忘却曲線(ぼうきゃくきょくせん)」というものがあります。博士は「一度覚えたことをどのくらいの時間で忘れてしまうか」「いったん忘れてもどのくらいの時間で取り戻せるか」の実験を行い、記憶と時間の関係をグラフ化したのです。

その結果が衝撃的! 20分後には42%忘れ、1時間後には56%忘れ、1日後には74%も忘れてしまうという驚きの数字が並んでいます。ラボ調べによると、この%の数値には多少のズレがあるようですが、ここはざっくりと「20分で4割減、1時間経つと半分に、1日経つと8割は忘れちゃう」と理解しておけば十分でしょう。それにしても1日で8割とは、結構大胆に忘れてしまうんですね。

さらにその先を見ていくと、ゆるやかに、そしてわずかに記憶の現象は進んでいき、1週間で76%忘れ、1ヶ月では79%忘れるという結果になっています。1日と1週間、1ヶ月の差があまりないことにもビックリですが、何も手を打たなければ、せっかくインプットしても2割くらいしか覚えておらず、時間とともにどんどん減っていく・・・というのが現実なのです。

エビングハウス博士はこれらの実験から、「人は忘れる生き物である」という素敵な言葉を残しています。そうなんです。「忘れる」のが悪い、劣っているというわけではなく、私たちはそもそも「忘れる生き物」なのです!(←ここ、大事です 笑)

逆に言うと、忘れるから元気で楽しく生きられる、とも言うことができます。すべてを覚えていたら、アタマがパンパンになって苦しいですよね。私たちは毎日、生きているだけで膨大な情報を処理しているので、忘れるという素晴らしき機能を神さまが与えてくれたのかもしれません。ですから、「覚えられない」「すぐ忘れちゃう」=「自分はダメだ」「頭が悪い」と勝手に決めつけたり、悩んだり落ち込んだりする必要はありません。そもそも「忘れるのが当たり前」なのですから、堂々と忘れてくださいね。

「忘れる」に歯止めをかけるテクニックがあった!

とはいえ、忘ればかりでは勉強する意味がないし、知識も増えていきませんよね。エビングハウス博士はその辺もちゃーんとわかっていて、「繰り返し覚える(反復する)ことで、記憶に定着させることができる」とも言っているのです。しかも、その反復を早い時期にやった方が効率が良く、復習にかかる時間も短くてすむという結果も伝えてくれています。

でも、20分ごとに復習を行うのは現実的には無理がありますし、1時間ごとでも難しいでしょう。となると? そうです。復習にベストなタイミングは24時間以内。つまり、その日学んだことは、その日のうちに振り返っておくと「忘れにくくなる」というわけです、

さらに、この「振り返り」は、ある程度時間をおいて繰り返すと、短い時間で記憶が取り戻せることもわかっています。引き続きスイッチラボが調べたところ、カナダの大学が「記憶と復習の実験」をやったという記事を見つけました。

それによると、何もしないと1ヶ月後にはほぼ全部を忘れてしまうのに対し、24時間以内に復習すると、なんと「10分の復習で講義の内容を100%思い出せた」と書いたあるではありませんか!

さらに、講義から1週間後に2回目の復習をした場合は、5分の復習で思い出せる。講義から1か月後に3回目の復習をした場合は、なんと2~4分の復習で思い出すことができるという、嬉しい実験結果となりました。なんて素晴らしい実験をしてくれたのでしょう。カナダの大学、ありがとう!!

このリズムを知っていて上手に復習をするのと、まったく知らずに、ただ努力と気合で覚えようとするのとの差がどれほど開くか、想像するだけで恐ろしくなりますよね。皆さんも(そしてラボメンバーも)授業を聞いてからしばらく放置したあげく、テスト直前に夜更かしして一夜漬けしたものの、全然覚えられなかった・・・という経験があるかと思いますが、それは頭が悪いからではなく、ただ復習と記憶するタイミングを知らなかっただけ、だったのです!!

でも、もう大丈夫。「鉄は熱いうちに打て」という言葉があるように、インプットしてから1日以内に振り返りができればもうこっちのもの。24時間以内がムリでも翌日、遅くとも翌々日くらいまでに振り返り、1週間以内にもう一度、さらにしばらくしてからもう一度・・・というように定期的に振り返っていけば、ムリなく上手に記憶することができるのです。ということで、久々の「スイッチ語録」です。

記憶に定着させるには

1日以内に振り返り、少し寝かせて、何度も復習

覚えて実践してみてください。

ムリなくできる記憶法3選!

大事なことは覚えていたい。忘れたくない。これは忘却の生き物である人間にとって、共通の希望であり願いなのでしょう。記憶に関する研究は多方面から進められ、今では脳科学や自律神経といった人体の科学も含めた形で、さまざまな検証がなされています。人間の身体は神秘に包まれていて、現代科学を持ってしても謎の部分がたくさんあるのですが、それでも「ここまでわかった!」ということがたくさんあります。その中から、これだけは知っておいて欲しいことを、スイッチラボ的にまとめて3つ、お伝えいたします。

◯ 小さなストーリーを作る!

先のエビングハウス博士の実験は、意味のないアルファベットの羅列を、どこまで覚えていられるかの実験でした。人間は意味のないものを丸暗記するのは苦手で、意味を理解しながら記憶する「意味記憶」や、その背景にある物語とからめて記憶する「エピソード記憶」を得意としています。

ですから、意味なく丸暗記しようとするのではなく、それぞれの意味やエピソードと一緒に覚えていくようにするのです。たとえば年号。何年に何々があったと、ただ無機質に数字とできごとを覚えようとすると、短期間でキレイに忘れてしまいますよね。ところが出来事や事件の全貌や登場人物、その時何が起きたかをショートドラマ風に理解した方が、すんなりと記憶エリアに入ってくれます。さらにその時々のシーンを絵的にとらえてイメージすると、よりスルッと覚えられるといいます。なんといっても人は情報の7〜8割を視覚から得ているので、「覚えたいことがら+ビジョン」が最強のコンビとなるわけです。

◯ 感情を動かせ!

これは最新の脳科学でも言われていることなのですが、「つまんねーなー」と思いながら記憶しても、一向にインプットは進みません。これはネガティブな感情により、脳にストレスホルモンが出てしまうから。ストレスホルモンまみれでは、努力も報われませんよね。

逆に「何これ!」「おもしろーい」と思いながらインプットすると、ポジティブな感情が脳をいい感じに刺激して、これまたスルッと記憶エリアに入ります。ですから、先ほど「ショートストーリーで」「絵的にイメージ」と言いましたが、ただ思い浮かべるだけでなく、そこにいちいち「小さなツッコミ」を入れていって欲しいのです。

「わー、なんてマヌケ!」でも「ナイスアシスト!」でも「それはあかんやつ〜〜」でも、なんでもOK。記憶に自分の感情エッセンスをプラスすると、脳のホルモンが味方になって、ストレスなくいい感じに記憶をインプットしてくれるのです。

でも、いちいち絵的にイメージしたり、ツッコミを入れたりしながら覚えるのって、時間もかかると不効率なのでは?と思うかもしれませんが、大丈夫。長い目でみれば、淡々と進めるより、むしろこちらの方が効率的に覚えられるのです。

◯ 意味のないところには「勝手」に作る!

イメージやストーリーが大事なのはわかった。でも、英単語や化学記号や数式など、イメージしにくいものを覚えなければならない時もありますよね。そんな時に最強の武器になるのが、人間の想像力と創造力。「ないのなら作ってしまえ、ホトトギス」の心意気です。イメージを自分で勝手に作ってしまうのです。

記憶術の定番で「記憶連結法(れんけつほう)」というものがあります。ランダムに並んだ単語でも、それぞれに「意味」と「シーン」を勝手にくっつけていくと、あら不思議。自分でもびっくりするほどスルッと覚えることができるんです。

たとえば、頭に「ad」がくる英単語、「address(アドレス:住所)」や「adjust(アジャスト:調整する」など、上から順に覚えるのは結構大変です。でも、「adがつく単語はぜんぶ人気アーティストのAdoさんがやっている」と思い浮かべるだけで、まったく違うイメージが生まれますよね。たとえば、Addressは「Adoさんがドレスを着て交番で住所を聞く」、adjustは「Adoさんが(手のひらの上で)ジャストサイズになる」という感じです。ちょっとムリがあったとしても、その辺は笑いでカバー。想像の世界は「なんでもあり」ですので、自由な発想で記憶エリアに入っていただききましょう。想像しているうちに自分の口角が上がってくればOK! コツがわかるにつれて、つなげるのが楽しくなってくるはずです。

いかがでしたか? 今回は記憶について深掘りしてみました。他にもいろんな方法がありますが、まずはスイッチラボおすすめの方法を試してみてくださいね。それと、記憶には焦りと不安は禁物です。脳をリラックスさせながら、楽しく取り組んでいってくださいね。

そして、大事なことはもう一度。

記憶に定着させるには

1日以内に振り返り、少し寝かせて、何度も復習

ぜひお試しください。

ラボのつぶやき

今回、記憶について掘り下げていく中で、「語呂(ごろ)」で覚えた年代だけ、今も妙に覚えていることに気がついたラボメンバー。たとえばメンバーが学生の頃(The昭和時代ですが笑)、「聖徳太子のコックさん=593年に聖徳太子が摂政となる」、「鳴くよ(794年)うぐいす平安京」、「いい国(1192年)つくろう鎌倉幕府」といった感じです。

時代とともに歴史の検証や解釈が変わり、鎌倉幕府の成立は1192年ではなく1185年になっておりますが、それでも新しい語呂として「いい箱つくろう鎌倉幕府」というのがすでに浸透しているとか。さまざまなものが目まぐるしく変わる世の中で、今も昔も「語呂合わせ」という記憶法が受け継がれていることがとてもうれしく、そしてこの感覚が今の若者にも通じていることに、なんだかホッとしているスイッチラボなのでした。

他にも思い出せるかな?と、試しに書き出してみたところ、結構な数がスラスラ出てきて自分でもびっくり。使わなくなってから何十年も経ちますが、こんなにも記憶に定着しているんですね。やはり無機質に数字だけを覚えるより、なにかちょっとでも「とんち」を効かせて楽しく覚える工夫をした方が、記憶にバッチリ残るということを、身をもって証明した思いです(笑)。「語呂あわせ」パワー、恐るべし!ネットで検索するとたくさんヒットしますので、面白そうだと感じたらぜひチェックしてみてください。覚えるのがさらに楽しくなるかも、です。